桜川市議会議員 かわまた隆

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福島第一原発のALPS処理水の海洋放出について

■はじめに

政府はこの夏にも、海洋放出を行うと表明し、反対する漁業団体等への説明に回っています。また、様々な報道がなされています。①放流水は安全なのでしょうか。②何故、急いで放流するのでしょうか。③福島の人たちや漁業者の方々に、さらに苦しみを与えてよいのでしょうか。④もっとよい方法はないのでしょうか。私たちは、今後、東海第二原発の再稼働について、再度の県民投票に向けての準備活動を開始します。いろんな方から海洋放出についても疑問や意見が出ると思います。そこで、私がネットで検索した資料の範囲で、考え方を整理しましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

■国(経済産業省)の見解の要約

  1. 福島第一の敷地内のALPS一次処理水は1000基、133万トンを超え、敷地内の用地がないのでこの処理水の処分は避けて通れない課題である。
  2. この処理水に含まれるトリチウムは、技術的には除去できず、自然界にも広く存在し、世界中のどこの原発でも大量に放出されているが、健康被害などの問題は生じていない。放出に当たっては、①処分時のトリチウム総量は、事故前の管理目標値(年間の排出量22兆ベクレル)未満とする。②濃度は100倍に希釈し、規制基準の1/40とする。これは、現在のサブドレンの地下水の海洋への放流水と同じ濃度である。
  3. ALPS処理水のトリチウム以外の核種も規制基準の1/100未満にして放出する。現在のタンク内の一次処理水は、規制基準値の2406倍の濃度があるが、これを0.35倍までに再浄化(二次処理)し、さらに、希釈して1/100以下まで下げて放出する。
  4. 放出しても人や環境への影響はごくわずかである(東京電力資料)。①人への影響は自然放射線からの影響に対し、約100万分の1~約7万分の1 ②魚等への影響は約300万分の1~約100万分の1である。

※ALPS:多核種除去設備、放射性物質を吸着など、様々な方法で除去する装置
※サブドレン放流水とは、陸地側から地下水流入を防ぐために、施設建屋を囲む遮水壁などに溜まった地下水をサブドレン(排出口)から、海洋に放流しているもの。2015年以降続いている。

■トリチウムの放出は、現時点では特に問題がないと思われる

以下は、私見になります。

  1. トリチウムは全世界の原発施設で大気中と海洋等へ放出されているが、特に重大な健康被害は報告されていない。
  2. 放出総量は再処理施設やカナダ型重水炉に多い。(経産省HP資料)
    1. 仏:ラ・アーグ再処理施設 液体:10000兆ベクレル 気体:54兆ベクレル
    2. カナダ:ブルースA,B原発 液体:1190兆ベクレル 気体:1230兆ベクレル
    3. 中国:陽江原発 液体:112兆ベクレル 気体:1.8兆ベクレル
    4. 韓国:月城原発 液体:71兆ベクレル 気体:92兆ベクレル
    5. 日本のBWR型原発の平均値 液体:約316億~1.9兆ベクレル 気体;約770億~1.9兆ベクレル
    6. 日本のPWR型原発の平均値 液体:約18兆~83兆ベクレル 気体:約4400億~13兆ベクレル

    ※BWR:沸騰水型原子炉(福島第一など)
    ※PWR:加圧水型原子炉(美浜、大飯など関西系電力会社など)
    ※ベクレル:一秒間に1個原子核が変化する単位=1Bq

  3. 原子力資料情報室「トリチウム水問題を考える」(2018/10/1)では、①トリチウムについて多くの科学論文があるが、「注意して対処できる」と報告されている。 ②カナダ、日本、米、独、英では、原子力施設近傍住民に小児白血病、新生児死亡、遺伝障害などの増加が観察されている、と記載している。

■問題はトリチウム以外の62核種(ストロンチウム、セシウム、ヨウ素など)である

  1. 福島第一の汚染水は、壊れた建屋に降る雨水や「燃料デブリの冷却水」、建屋内の地下水である。この汚染水の一部は浄化後、再度、「燃料デブリ」の冷却水に使用し発生汚染水を低減させている(2014年:540トン/日→2018年:170トン/日に減少)。従って、ALPSでの一次処理後のタンク貯蔵の処理水の放射線濃度は高いレベルである。
  2. 放出するにあたり、これを再処理(二次)するが、100%の除去はできず、計算上は 0.0145%が除去できずに放出される(2の(3)による。0.35倍/2406倍=0.000145)。
  3. さらに1/100に希釈して放出するというが、希釈しても核物質の総量は変わらない。有機物と異なり分解されないから、半減期がくるまで海洋中に残存している。
  4. 放出される期間は、「燃料デブリ」の取り出しが終わるまでと考えられる。今だ1ミリグラムのデブリも取り出せていない。今後、50年以上かかるかもしれない。今のところ終了の予測がつかない。終了するまでに放出される核物質の総量も分からない。
  5. 放出後もモニタリングにより水産物の濃度を確認するというが、核物質の総量が不明であり、食物連鎖の中で、水産物に何らかの影響が出ないとは言い切れない。

※当初は、廃炉に30~40年を要すると言っていた。

■では、どうすることが現実的な選択か

  1. 処理水の取り扱いを検討した「小委員会報告書(2020年2月10日)」は、①海洋放出と水蒸気放出を検討している。②コストは海洋24億円、水蒸気349億円としている。そして、水蒸気放出は焼却灰(固形物)が残るとしている。「いくつかの核種は放出されずに乾固として残り、残渣が放射性廃棄物となり残ることも留意(P25)」と記載。③中間貯蔵施設用地へのタンクの増設も検討しているが、送水するパイプラインの両側の安全管理用地の確保、法令上の規制、住民同意の難しさを指摘している。
  2. 環境(大気、海洋など)への排出は、排出量が少なければ、拡散し環境の浄化能力があるので許されてきたが、排出量が多い場合は、排出規制(個別浄化施設の濃度規制)だけではなく、総量規制するというのが、公害対策の常識である。「無限」の大洋に放出すれば、限りなく希釈され、影響は極めて少ないというのは、過去に存在した「科学的知識」への逆戻りである。 ※40年前の横浜、川崎や大阪、西宮での大気汚染健康被害訴訟(主な原因は工場の大気汚染だけでなく、国道・高速道路の車の排気ガスとされた。)国、市、自動車メーカー等が健康被害救済制度をつくり補償してきた。本来は車両総数の規制だろう。 ※30年前の元石原都知事のディーゼル車両の都内乗り入れ規制(ペットボトルに黒いディーゼル排ガスを溶かせ、手に持ってのTV記者会見)は記憶にある。ある段階からは、総量規制となる。
  3. 可能な限り核物質は除去し、どうしても処理しきれない部分だけを環境に排出するという努力が必不可欠である。この点から、①水蒸気放出 ②貯蔵タンク増設に注目したい。
  4. 貯蔵タンクは、廃炉にする福島第二原発などに増設する。ALPS二次処理水は大型タンク車で夜間に運ぶ。水蒸気で蒸発処理→核物質の残渣とトリチウム水に分離→核物質の残渣はガラス質に固形化、トリチウムを含む水蒸気は再度冷却しタンクに半減期(12.3年)まで貯蔵→その後、海洋か、大気に放出する。
    ※原子炉の燃料棒は、夜間、厳重な警備をして横須賀から各地にトラックや船で運送している。
    ※ALPSの二次処理水は、海に放流できる程度に安全と言っているので、パイプラインでの搬送でも問題はない。
  5. トリチウム以外の核物質を可能な限り取り除けば、海洋や大気への放出は許されると考える。稼働中の原発からも放射性物質は放出されている。1年稼働すれば定期点検を2,3か月行うが、この時、格納容器や原子炉の圧力容器の一部を開く、燃料棒の交換も行う。また、多くの配管や設備も点検、補修する。建屋内に放射性物質が漏れている。事業者は管理しながら放出している(一時保管、フィルターによる除去など)。現状でも、放出管理目標値内の水準で放出され、これを住民は受忍している。
  6. 時間と金がかかることになるが、①事故炉であり、「燃料デブリ」による汚染水であっても、原則は、(5)のように通常の稼働中原発の放出管理目標値の水準(規制基準の水準ではない)まで下げ、原発周辺の住民が、やむを得ず受忍している水準と同じにすることである。政府も、事故炉も通常炉も同じ排出水準と言っているが。 ②現在の海洋放出方針(2021.4.13関係閣僚会議決定)でも、今後の風評被害対策は1000憶円を下回らないと想像される(まず、300憶円の補償基金)。③中国をはじめ、諸外国の批判や水産物輸出への影響は避けられそうにない。むしろ、可能な限りの努力をせず、拙速に海洋放出方針を決めたがために、批判を呼び込むことになったと理解すべきであろう。④福島第一の廃炉作業期間は、当初の40年から相当に延びることも確実であろう。これらを考えれば、(4)の案をはじめ、時間とお金をかけ、漁業者をはじめ福島県民、国民の多くが納得できる方策を提案するのは当然のことである。

■政府報告書や説明資料の疑問点

「小委員会の報告書」などで、気になる(記載していない)のは次の事項である。

  1. 「燃料デブリ」に接触しない地下水など(厳密にいえば、敷地内汚染土からの浸透水もある。いわゆるサブドレンの排水のこと)は、現在でも管理、測定し放流しているが、その測定値は記載していない。それでいて、今回の濃度は、この放流水と同程度と言っている。
  2. ALPSで一次処理しているが、この処理によってどの程度の放射性物質が固形で取り除かれたのか、その放射性物質は何かなどのデータは記載されていない。それでいて、ALPSでの二次処理で99.985%の核種物質が取り除かれると言われても、にわかに信じることは難しい。・・資源エネルギー庁HP「スぺシアルコンテンッ」・福島で、一応は知ることができるが、サンプルタンクとされ、全容を想像し理解することは難しい。
  3. 福島第二など、第一の敷地外でのタンク増設は真剣に検討していない。法令等の困難性ばかりを強調している。ちまたに言われる「小役人のできない言い訳」の見本である。これでは、海洋放出を前提にした議論と言われても仕方がない。
  4. 水蒸気放出も真剣に検討していない。これは米のスリーマイル島原発事故で規模は小さいが前例がある。どうしても避けることができない環境への放出であるならば、「既に大きな風評被害の出ている漁業者のみに、さらに風評被害を押し付けることが正義か。あるいは、原発が存在するかぎり、避けることができない大気放出での多数人(全国民)の風評被害が正義か」、国民的(県民的)な議論があってもよい。風評被害対策について12Pも割きながらも(12P/40P)、肝心な議論は避けたい思惑を感じる。
  5. 苦しみを福島県(と関係する漁業者)に押し付けてはならないので、「安全となったALPS二次処理水」を東京電力管内の都県が応分の量で引き受け、火力発電所や清掃工場で水蒸気蒸発させる方法もある。放出管理目標値以下ならば、現在の原発周辺住民の環境状況と同じである。

検討資料は以下の通りです

  1. 経済産業省広報資料 「ALPS処理水」と「汚染水」は違うものです。(全体9P)
  2. 経済産業省 ALPS処理水に関する質問と回答(3P)
  3. 多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会報告書(2020年10月10日 全体 45P)
  4. 同上(概要、P3)
  5. 環境省 放射性物質を環境へ放出する場合の規制基準(2022年3月)
  6. トリチウム水問題を考える(原子力資料情報室通信 第532号 2018・10・1)3P
  7. 「原子力資料情報室声明」JAEA報告書は汚染水の海洋放出を正当化しない(2023.7.6)2P
  8. 資源エネルギー庁HP「スペシャルコンテンツ・福島」は部分的に参考にしています。

この分野は分かりづらい。規制基準値の考え方を環境省資料などで私なりに整理

  1. 自然放射線は年間2.1ミリシーベルト(mSv)である。(日本、一人当たり平均 食物から0.99、宇宙から0.3、大地から0.33などの合計)
  2. 規制基準は1mSv未満とする(国際放射線防護委員会ICRP勧告)。・・追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)
    ※mSv:放射線が「人」に当たった時の影響の大きさの単位。ちなみに、5%致死量(1/20人は死)は、2Sv(2000mSv)といわれる。
  3. 放射性物質ごとに「告示濃度限度」を定め、すべての放射性物質の影響を総合して「告示濃度比総和」とする。この「濃度比総和」が「1」を下回るように規制する。
  4. 例えば、ALPS二次処理水(性能試験結果)
    ・コバルト60:0.0017 ・セシウム137:0.0021 ・ストロンチウム90:0.0012 ・ヨウ素129:0.13 ・その他の核種:0.215 計トリチウム以外の告示濃度比総和0.35
  5. 国内原発の管理線量目標値は、年0.05mSvである。
    ※②の規制基準1mSvの1/20である。※ALPS二次処理水は管理線量目標値の7倍となる。従って、トリチウム水と一緒に100倍に希釈するのだろう。
  6. 国内原発での放出(排気、排水)は、通常運転時は管理目標値を大幅に下回っている。定期点検時などは高くなるのだろう。排気は一時タンクに貯めフェルターで処理して管理排出する。排水は、冷却用水と合わせて希釈排水するようである。


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